![]()
──お金の使い方で、後悔を減らす思考法
『アート・オブ・スペンディングマネー』は、「お金をどう増やすか」「いくら持てば安心か」といった、多くのマネー本が前提としている問いから一度距離を取り、1度きりの人生で、お金をどう使うべきかを改めて考え直す一冊です。
お金をゴールとして扱うのではなく、人生をより納得のいくものにするための“手段”として捉え直すところから、本書は始まります。
この本は、投資テクニックや節約術、再現性のある成功法則を教えてくれる本ではありません。
むしろ、収入や資産が増えてもなぜ満足感が長続きしないのか、その背景にある期待の膨らみ方、他人との比較、感情の揺れといった、人間らしい要素に光を当てながら、お金との関係性そのものを見直していきます。
読み終えた瞬間に行動が劇的に変わるタイプの本ではありませんが、買い物をする前、将来の選択に迷ったとき、人と自分を比べてしまいそうになったときに、「これは本当に自分にとって必要だろうか」 と一度立ち止まれるようになります。
そうした一呼吸置ける判断軸が、時間をかけて静かに身についていく――この本は、そんな変化をもたらしてくれる思考の本です。
目次
この本を一言でいうと・・・
本書は、お金をどう増やすかではなく、どう使えば後悔の少ない人生になるかを問い直す一冊です。
幸福は資産額そのものではなく、期待や比較、感情との向き合い方によって大きく左右されると著者は示します。
お金を「目的」ではなく、「自由と選択肢を広げるための道具」として捉え直す視点を与えてくれます。
『アート・オブ・スペンディングマネー』は、マネー本という枠に収まりきらない、人生設計と価値観の見直しを促す一冊です。
投資の手法や節約のテクニックではなく、私たちが日々どんな基準でお金を使い、どんな期待や不安を抱えて選択しているのかに焦点を当てています。
本書を読むことで、「正しいはずの選択」や「周囲にとっての成功」から少し距離を取り、自分にとって本当に納得できる選択とは何かを静かに問い直す時間が生まれます。
お金を通して、自分の人生の軸を整えたい人に、長く寄り添ってくれる一冊です。
本書の核心:お金の使い方は「実用」か「ステータス」か
本書が繰り返し問いかけるのは、その支出は「自分の生活を良くする実用」なのか、それとも「他人の評価や注目を買うステータス」なのか、という点です。
高いモノを欲しくなるとき、私たちはしばしば「モノ」ではなく、承認・見栄・比較の安心感を買っています。
この構造に気づくだけで、
- 衝動買い
- 買ったのに満たされない感覚
- 「正しいはずなのに後悔する支出」
が少しずつ減っていきます。
本書が刺さる悩み5選
収入が増えても満たされない
収入が増えれば幸福も増える、とは限りません。本書は、満足を左右するのは金額ではなく、期待の置き方だと指摘します。
お金の不安がずっと消えない
不安の原因は、金額不足だけではありません。お金が人生の主導権を握っている状態そのものが、不安を生み続けることもあります。
他人と比べて疲れる(SNSで焦る)
他人の人生は断片しか見えないのに、その断片と自分の全体を比べてしまう。本書は、比較が幸福を削る仕組みを言語化してくれます。
買い物で後悔したくない(高い買い物ほど迷う)
家や車などの大きな買い物は、数字だけで決めても後悔が残ることがあります。感情や暮らしの実感を無視した選択が、後から効いてくるからです。
FIREが目的化して苦しい
自由を目指して始めたはずなのに、数字や目標に縛られてしまう。そんな違和感を覚え始めた人に、本書は「自由とは何か」を問い直します。
今日から使える:買う前に自分に聞く3つの質問
支出や意思決定の前に、次の3つを自分に問いかけてみてください。
- これは実用?それともステータス?
- これは自由(選択肢)を増やす?減らす?
- 未来の自分は、この支出をどう思う?
この3問があるだけで、見栄や不安に引っ張られた選択が減り、満足が残る支出を選びやすくなります。
『サイコロジー・オブ・マネー』との違い
──「わかる」から「使える」への一歩
前作『サイコロジー・オブ・マネー』が扱っていたのは、お金と人間心理の関係を俯瞰的に捉える視点でした。
なぜ人は非合理な判断をしてしまうのか、なぜ富があっても幸福になれない人がいるのか。
そうした問いに対して、行動経済学や実例を交えながら「理解する」ための土台を築いてくれる一冊でした。
一方、『アート・オブ・スペンディングマネー』は、その理解を前提とした次の段階に踏み込みます。
テーマはより具体的で、焦点は明確に 「お金を使う局面」 へと移っています。
貯めること、増やすことには慣れてきた。
でも、
- 何に使えば後悔しないのか
- 使ったあとに満足が残る支出とは何か
- 「正しいはずなのにモヤっとする選択」はなぜ起きるのか
そうした問いに対して、本書は心理・感情・価値観の観点から答えを探っていきます。
「わかる」から「実際の判断に活かす」へ。その移行を助けてくれる点に、本書ならではの価値があります。
どう読むと役に立つか(読み方のコツ)
──ノウハウではなく「自分の反応」を拾う
この本を最大限に活かすコツは、正解や結論を探しにいかないことです。代わりに意識したいのは、自分の心が動いた瞬間を見逃さないこと。
まずおすすめなのは、読んでいて
「少し引っかかった」
「なぜか気になった」
「耳が痛いと感じた」
そんな箇所に印をつけながら読み進めることです。
次に、最近の支出や迷った買い物を思い出しながら読むと、文章が一気に“自分の話”になります。
高い買い物、衝動的な支出、逆に使えなかったお金。
それらと重ね合わせることで、本書の内容が抽象論ではなく、実感を伴った気づきに変わっていきます。
また、本書は最初から最後まで一度で理解する必要はありません。
刺さった章だけを、時間を置いて何度も読み返すことで、そのときどきの人生フェーズに応じた意味が立ち上がってきます。
人生の節目ごとに読み返すことで、「前はここが気にならなかったのに、今はここが刺さる」そんな変化を感じられるのも、この本の特徴です。
読む前に知っておきたい注意点
──期待値を合わせておくと満足度が高い
本書は、節約術や投資ノウハウを学びたい人にとっては、少し肩透かしに感じられるかもしれません。
明日から使えるテクニックや、再現性のある成功法則はほとんど登場しません。
その代わりに提示されるのは、
「どう考えるか」
「どんな基準で選ぶか」
という、判断の土台になる視点です。
また、読後にスッキリした答えが出るとは限りません。
むしろ、
「これまで当たり前だと思っていた選択が揺らぐ」
「簡単に決めていたことを、立ち止まって考えたくなる」
そんな感覚が残る人も多いはずです。
さらに、この本は読むタイミングによって刺さり方が大きく変わります。
忙しくて余裕がない時期よりも、一度立ち止まりたい、考え直したいと感じている時期のほうが、言葉が深く染み込みやすいでしょう。
まとめ:お金に振り回されない判断軸を手に入れる
![]()
『アート・オブ・スペンディングマネー』は、お金を「どう増やすか」「どれだけ持てば成功か」といった発想から距離を取り、どう使えば後悔の少ない人生になるのかを静かに問い直すための本です。
即効性のある節約術や投資ノウハウは語られませんが、その代わりに、私たちが日々の選択で無意識に引きずられている不安や比較、見栄といった感情の正体を丁寧に言語化してくれます。
お金の不安、他人との比較、正解を探し続ける疲れ。
そうした揺れに振り回されている状態から一歩離れ、「これは自分にとって本当に意味のある選択か」 と立ち止まれる判断軸を取り戻すこと。
本書が与えてくれるのは、そのための考え方と視点です。
一度読んで納得して終わる本ではありません。
ライフステージが変わったとき、大きな買い物に迷ったとき、将来への不安が強くなったときに、ふと手に取って読み返したくなる。
そんなふうに、人生の節目ごとに寄り添ってくれる長く付き合える一冊になるはずです。
ショップで見る
編集後記
お金の本を紹介する記事を書いていると、「増やす」「守る」「正解を選ぶ」といった言葉が、いかに無意識に前提になっているかに気づかされます。
でも『アート・オブ・スペンディングマネー』は、その前提を一度そっと外し、「そもそも、何のためにお金を使うのか」という問いを真正面から投げかけてきます。
この本を読み進めるうちに印象に残ったのは、お金そのものよりも、お金を使うときに私たちの中で何が起きているのかを、非常に丁寧に扱っている点でした。
不安、期待、比較、見栄。どれも否定されるものではなく、むしろ「誰にでも自然に起こる反応」として描かれているからこそ、読み手は防御せずに自分の選択を振り返ることができます。
即効性のある答えはありません。
「こうすれば後悔しない」というチェックリストが示されるわけでもありません。
それでも、買い物の前や、将来の選択に迷ったときに、ほんの一瞬立ち止まれるようになる。その小さな変化が、積み重なることで後悔の少ない人生につながっていく――そんな感触が、この本にはあります。
今回の記事も、「理解した気になる」ことより、「自分の選択を振り返る余白」が残るよう意識してまとめました。
読んだあとにすぐ何かを変えなくても構いません。ただ、次に迷ったとき、ふとこの記事や本の一節を思い出してもらえたら、それだけで十分だと思っています。
お金に振り回されないために、強くなる必要はありません。
考え直せる場所を持っていること、それ自体がひとつの自由なのだと、この本は教えてくれました。
この記事が、その静かな立ち返り場所のひとつになれば、書き手としてこれ以上うれしいことはありません。
関連記事